男のコミュニケーションは大丈夫? 

実践女子大学人間社会学部 講師 

中居 芳紀

 

 

 私は損害保険会社の研修部門勤務が長かった。新入社員研修・新人代理店研修では、ロールプレーを交え、適切なコミュニケーションの取り方をアドバイスした。“如何に簡潔に情報を伝達するか”、“如何に短時間で、自社商品のメリットを効率的に、顧客に伝達するか”、一方で「女性の話は結論がない」と、女性のコミュニケーションをマイナスイメージで捉えることが多かった。

 

 ところが20137月、大阪大学人間科学研究科のフォーラムに出席し、衝撃を受けた。最初に登壇した医師の石蔵教授が現場から見える実情を語った。「最近マスコミを賑わせている孤独死ですが、男性は白骨化してから発見(死後3ヶ月~半年)されますが、女性は3日位で発見されます。この差は、男女のコミュニケーションの違いにあるようです。」

 

 “何?どういうことだ”私の頭に電流が流れた。男性のコミュニケーションは、“事実・結果を重視する、結論ありきの用件のコミュニケーション”である。用件が無ければ話すこともない。定年で職場を離れた男性は、地域に足場もなく、会話すべき用件もないため人間関係が構築できず、孤独死への道を歩んでいく。

 

 一方、女性のコミュニケーションは、「事実・結果」を重視する男性に対し、「感情」を大切にする。「事実・結果」よりも、気持ちを分かってもらいたい、気持ちが通じないと納得できない、という面を重視する。感情の交流を重視する女性のコミュニケーションは、地域で人間関係のネットワークを生み出す。それゆえ、孤独死も3日目で発見されるらしい。

 

 こうした男女のコミュニケーションの違いは、男性と女性の脳の生理学的な違いに起因すると言われる。私は、研修の場で誤った知見を、顧客との接点にいる保険代理店に語ってきたのではないか、と危惧した。営業場面で必要となるコミュニケーション能力が、男女の違いから見えてくる。最近、書店の営業本コーナーで「世間話が大切」「話す営業より聞く営業」などのタイトルが増えているのもこの辺の事情がありそうだ。

 

 最後に、孤独死に対応する保険について…高齢者の孤独死による部屋の汚損、空き部屋など、賃貸業者にとってリスクになってきている。少額短期保険会社が最近、賃貸住宅管理費用保険『無縁社会のお守り』という賃貸物件オーナー向けの保険を販売している。一戸室月300円の保険料で、汚損した部屋の原状回復費用100万円と、空き家家賃・最長12カ月200万円の2つの補償がついている。近年よく売れているというが…我々に淋しい時代の到来を告げているのかもしれない。

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