フリーアドレスオフィス・30年の今昔

アクサ生命保険株式会社
ITデリバリー本部
井上由美子

 

 

 様々な働き方改革の後押しで、改めてフリーアドレスにも脚光が当たっている。テクノロジーの恩恵でフリーアドレスをサポートするツールも充実し、従来とは比較にならないほど使いやすくなった。ここ数十年の会社員生活を振り返ると、あらためてフリーアドレスとはつかずはなれず、いろいろ経験してこられたので、少しその思い出も含めて今回の記事を書くことにした。

 

 これまであらためて知る機会がなかったので、調べてみたところ、フリーアドレスという言葉も実験的導入も1980年代後半の日本で始まったらしい。もちろんコンセプトして先陣は米国の企業が切っていたようだが、日本で育ったこのフリーアドレスは、もともとは欧米なみのオフィス環境をもてないことに対しての苦肉の策だったらしい。以来30余年たって、いよいよ本格的にプラクティスといえるような使い方ができるようになってきたのではないかと思う。

 

 1989年にこのフリーアドレスの先頭を走っていたI社に勤務していたので、このころのこともとてもよく記憶にある。グループアドレスと呼んでいたが、今思えば先進的だった。

 このシステムの運用はきわめてシンプルだった。出社したら、オフィスフロアのオンラインデスク予約画面で自分の机を決定。選んだ机に自分の電話が転送されて、予約画面の電子座席表に名前と電話番号が掲載されて準備完了。可動式袖机に収納して自分の荷物を今日の机まで移動させて業務開始となる。

 

 しかし数年たって、このシステムはゆっくりと固定席にほぼ戻っていった。グループアドレス利用は営業社員だったが、日中の顧客訪問がおわった夕方から社員がオフィスに戻りデスクワークについたため、夕方からオフィスは一杯となっていた。逆に日中はがらんとしていた印象がある。オフィスを利用する職員の動向調査はもちろん実施したであろうが、結果としては全社への展開はされずに終了したので、必ずしも大成功とはいえなかったと思う。

 

 さて現勤務先のアクサ生命では十分なパイロット運用を行い、より広い対象者に提供するにあたっては、細密な分析と検証を経たうえで、フリーアドレスを拡大導入した。対象部門をインフォメーションテクノロジー部門とし、総勢300名余を対象者としてのスタートとなった。もともとインフォメーションテクノロジー部門の職員は、システムの稼働時間に合わせて勤務体制を変動させる必要もあるし、プロジェクト体制を組んで仕事をする上では、先の営業社員に比べれば、業務上のニーズからもフリーアドレスは理にかなっている。

 

 フリーアドレス導入にあたり、同時に進めたのは、在宅勤務の適用拡大と、働く社員のためのスペースの転用の考え方だ。前者の在宅勤務は現在月6回の利用が可能で、対象者全員がこのガイドに沿って在宅勤務をすれば、出社している職員は全体の7割となる。オフィス削減が主目的ならばこの点だけに着目することになるが、それでは30年前のフリーアドレス構想と同じで、従業員が不満を抱くことにもなる。作業環境が狭くなる、自分の働く場所がない、というのは不満要因だからだ。

 

 当社はフリーアドレススペースに所属員数の約7割の机と椅子を設置し、同時にオフィス内に複数の打ち合わせスペースや会議室を増設した。この対応で、打ち合わせをするスペース不足による課題や、会議調整時間の無駄などを省き、勤務時間内にスムーズに業務を完了できるように効率的にすすめたい、という社員を動機づける点にも目をむけている。併せて、空いたスペースに社内カフェをオープンし、打ち合わせや簡単な社内イベントに利用できるようにした。このカフェでは日々、簡単な打ち合わせをリラックスした雰囲気で進める社員の姿や、昼時に同僚と楽しげにランチをとる姿が見られる。

 

 フリーアドレスを導入するオフィスに求められるのは柔軟なスペース利用と働き方ではないだろうか。新しいツールを使い遠隔からも会議ができるようにサポートする傍らで、同時に顔をあわせてすぐに打ち合わせができるようなスペースを増やし、人と人が直接会って話すことによって新たな発見が増えてゆく。社員が憩えるスペースを作って、社員同士が組織の壁を越えて合流できるようにし、距離をなくしてゆく。良いリレーションをつくりあげながら、働き方を変えてゆく。

 

 同時に忘れてはならないのは、厳格なセキュリティ管理である。オフィスレイアウトの自由度が会社のもつリスクを高めることになってはならない。システム上での管理の強化、オフィスの入退室管理など、きめ細かく整備が必要なのはいうまでもない。特にお客様の大切な資産をお守りし、お客様によりそったタイムリーなサービスを提供させていただくにあたっては細心の注意をはらっている。このような様々な対応を合わせ行って、スマートな働き方にむけて当社のフリーアドレスは成功裏にうまく舵を切って進んでいる。

 

 さて、今日はどこの席で仕事をしようか。朝出社してエレベーターの中でこんな考えをめぐらす。よし、業務で接点のあまりなかった同僚のとなりにすわってみることにしよう。

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