女性活躍をサポートするメンターシップのすすめ

アクサ生命保険株式会社

戦略プログラムオフィス レギュラープロジェクト3

マネージャー 井上 由美子

 

 

あるボランティア団体から、30代の女性のメンターをやってもらえないか、と依頼されてお引き受けした。女性管理職の少ない職場で働く、能力もモチベーションも高い女性社員の成長をメンターとしてサポートすることが目的だった。ご存じの方も多いとは思うが、「メンター」とは、ギリシャ時代の伝説で、「メントール」という人物の名前が語源であって、良き指導者・理解者・支援者としての役割を果たす人の意味である。

 

この女性は(仮にAさんとしよう)、国際会議でプレゼンテーションをする機会を得て、キャリア躍進のチャンスと喜んでいたが、相談した直属の上司の合意が得られず、数か月後のプレゼンテーションを控えて悩んでいた。組織の一員であることと、自身のキャリアアップの間のジレンマに強くストレスを感じていて、上司の合意をもらわず、有給休暇をとり強行することまで考えていた。この強行案は強引すぎて、好ましくない影響が容易に想定できるので、初回メンタリングで、一緒に良い案を模索しようということで踏みとどまらせた。

 

その後幾度かメンタリングしながら、幸い、最終的には当初難色を示していた上司や勤務先人事部門の全面的なサポートも得て、プレゼンテーションを完成させた。もちろんその際にはしっかりと勤務先の概要なども交えて、会社のアピールもできたし、何よりもご自身の経験と意見をきっちりと盛り込んだよい資料を作り上げ、無事多くの参加者を前に国際会議の場で、大変すばらしいプレゼンテーションを行った。

 

このメンターの例から、女性活躍推進に関連して感じたことをお伝えしたい。

 

第一に、組織や業界を超えたコミュニティのはたすべき役割である。Aさんの得た機会は、社外コミュニティから与えられたものであったが、こういった広範な活動は、組織の枠組みの中においてよりも、柔軟な意思決定を発揮しやすいようだ。組織や業界を超えての学びやネットワーキングから、組織内にとどまらない機会の提供ができるように働きかけ、同時にサポートを提供することは、女性活躍推進においては特に必要だと思う。

 

第二に、上司はいかにあるべきか、ということである。Aさんの申し出に対して、直属上司の方はすぐには応援する立場に立たなかった。何等かの理由があって立てなかったのかもしれない。Aさん自身から伺った「上司がまだこういう機会は早い、と言っている」、というコメントがもし事実だとすれば、社員の能力開発の点から見ると残念である。部下にチャンスが到来したときの上司としてはどうあるべきなのか、部下との対話とはどうあればよいのか、深く考えさせられた。たとえば、私が上司であったなら、プレゼンテーションを行うことで得られることと、失うかもしれないものや想定されるリスクを説明し、自分で選択させたと思う。リスクを取り、そのリスクが課題とならないように計画する、そして問題が発生した場合には、その責任をとるのも自分であることを認識させようとしただろう。幸いAさんの上司は、最後には応援してくれた。おそらく上司としてリスクをとる選択をしてくれたということだと考えている。

 

第三に、組織の一員としての行動と、個人としてのキャリア意欲と実現のバランスである。組織に所属している以上、その定めに従って行動するのは社会人として義務である。Aさんの場合は、いったんは有給休暇を取得してでも個人として実行してしまおうか、と切羽詰まっていたが、これは明らかに間違った考え方と諭した。会社にしっかりと応援してもらえるような成果を示し、かつこの先のキャリアアップに生かす提案をすれば、会社の応援も得ながら、Aさん自身の貴重な経験が実現できる、とアドバイスした。結果、人事部も巻き込んでしっかりと会社として対応でき、多くのサポートが提供された。組織としてしっかりと対応できたことが成功の一因といっても過言ではないので、バランスがとれた好例だったと思う。

 

話は変わるが、平成28年は、女性活躍推進法(推進法)が施行した年でもある。(平成28年4月1日施行)それから一年以上が経過し、対象となった企業の対応状況はどのようになっているのか興味があったので、調べてみた。

 

推進法では、従業員301人以上の企業に対し、女性活躍に関する行動計画を策定、労働局に届け、社内周知、公表することを義務付けた。2017年3月末日現在で、義務である該当企業の99.9%が届出し、努力義務である300人以下の企業も2789社対応した。

 

行動計画が完成したら次は実施である。社内にメンター制度を持つ企業も少なくはないと思うが、今回述べたように、社外にメンターを得る、コミュニティに参加を促すなど、企業内に収まらせるのではなくてどんどん外に飛び出させ、社会全体で活躍の場を作りだし後押しできるようになれればよいと思う。このようなメンターの活用は、多くの女性職員を擁し、ほぼ全ての会社が「女性活躍推進法」の対象となっている保険業界においても、有効であると思う。

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