第一分野、第二分野、そして第三分野!?

一般社団法人 日本損害保険協会

 竹井 直樹

 

 

 損保の業界団体に身をおいて40年が経過した。その間、業界団体職員として、商品関係業務を皮切りにいろいろな仕事に携わってきた。そのなかでも1988年~1996年くらいに傷害保険を中心にした第三分野の保険に携わった経験はとても貴重であった。それは商品に大きな差異がないなかでいかに競争上優位に立つのかということに各社が必死に腐心していたことである。団体の組成、代理店の増強、販売チャネル多様化・多角化、商品付帯など、主として商品の売り方を競う競争が激しく展開された。一方、商品開発では、当時、第三分野は、「昭和40年裁定(いわゆる柏木裁定)」という大蔵省が裁定した事業分野の仕切りがあって制限されていた。それでも、所得補償保険や約定履行費用保険などが開発され、現状を切り開く、柔軟な発想は健在だった。これらの経緯については拙稿(「第三分野の生損保調整小史と若干の考察―昭和40年裁定を中心に」損害保険研究673号)があるので参照願いたい。

 

 ところで、今から10年ほど前に「第一分野」と「第二分野」ということばを耳にした。私にとっては聞きなれないことばであったので、どこに書いてあるのか社内で尋ね、金融庁の監督指針に記載されていることを知った。当時、とても違和感を覚え、以来ずっと胸につかえていて、私自身は講演する際にはこのことばは使わないできた。この機会に少し考えてみたいと思う。

 

 少なくも私が「第三分野」を担当していた1988年から1996年くらいまでは「第一分野」と「第二分野」という使い方はなかった。また、保険自由化のきっかけとなった保険業法の全面改正時の国会論議の政府説明にも該当する記述はなかった。ある著名業界通によれば当時の日米保険協議の際にUSTR(米国通商代表部)が使い始めたという。

 

 ところで、「第三」ということばを使う場合は、「第一」は何か、「第二」は何かを明確にしなければならないという言辞上のルールがあるのだろうか。ある2つの事象があって、そのどちらでもない事象を「第三」と称するのではないか。例えば、「第三課」という組織があったら、「第一課」と「第二課」があるのは自然の帰結だが、本件はこのような次元の問題ではない。

 

 むしろ、こうしたことばを使うことの弊害を考えるべきである。業界内用語に止まる限りはたいした問題ではないが、世間で使っていくならこれほどの愚行はない。何故ならそれは余計に、いたずらにわかりにくくするからである。業界関係者なら何とか想像がつく人もいるかも知れないが、一般人にはどちらが「第一」か「第二」かはにわかには分からないだろう。生命保険、または損害保険と言った方がずっと分かりやすいことは誰が見ても明らかである。なお、私はかねがね「規模の生保」、「歴史の損保」だと思っていて、だから記述の順番が保険業法は生保が先、保険法は損保が先なのではないかと考えていた。

 

 保険という商品は、目に見えない、約束事が多いとても難しい商品である。商品や事務のコンセプトはとにかくシンプルでわかりやすくなければならない。誰を相手にしているのかをしっかり認識し、無意識のうちにわかりにくくしていないかを常に自問自答すべきである。

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